小さな会社を運営しているので、…
活版印刷
- 2020.05.24
- いいと思ったモノ
こちらで震災があった年に、縁あって活版印刷機を引き取ってきました。
この業界もデジタル化が急速に進み、パソコンとプリンターできれいなものができるようになってきましたが、そうなると逆の方へ進みたくなってしまう性格があり、「活版いいね」という気持ちだけが先走って無鉄砲にも名前だけ古そうな近県の印刷所へ往復ハガキを出して、運良く2件の印刷所から譲って頂いただきました。
写真の機械は、グラフォという旧チェコスロバキア製の機械で。業界で有名なハイデルベルグのOEM製品のようです。
重さが1tあるので、このために近くの1階の事務所を新たに借りて「工場」(こうば)として使うことにしました。
鋳造の鉄の塊は、200Vのモーターで動きフライホイールを回して圧縮動作をつくり、同じく圧縮空気を作って紙を吸い上げたり、くっつかないようにしたりとジブリに出てくるような動きをします。
「ガッシャン!」「シューシュー!」「ガッシャン!」「シュー!」
この機械は山形の上山(かみのやま)の印刷所さんから譲り受けました。
活版の需要が少なくなったので、この出番のない機械をどうしようかと考えていたところに私のハガキを見たとのことで連絡をもらいました。
無料とは言え、素人では運べないので運送屋さんにお願いしたのですがそれなリに費用がかかってしまいましたが、現役で動きますし「機械」然とした佇まいが気に入っています。
手放した印刷屋さんにこちらまで来てもらい、使い方のレクチャーをして頂きました。先代から受け継いで仕事を始めて50年以上とのことで理系の実直な仕事ぶりであろうことが想像できるお人柄でした。
機械は揃ったのですが、活字がないので当初は「樹脂版」で年賀状などを作っていましたが、少ししてまた山形のある印刷所さんから連絡があり、「廃業するから活字を活用して欲しい」との声掛けがあったので、何はともあれ見学に行ってみました。
田舎の普通の民家の一部が活版工場になっているところでした。
こちらも親から家業を受け継いで、お嫁さんと二人三脚で役場の仕事をしていたが、デジタルじゃないと仕事ももらえず一時期はパソコンを習得しようとしてみたが、納入業者が年寄りにパソコンを売ってくれず苦渋の決断で「廃業」することにした。とのこと。ただただ黙って聞いていました。
工場の中に入ると、活字が並べられている棚の前に感謝と別れを意味する灯明が点され、ゆらゆらと影を作っていました。
いい話に終わりたいのですが、この方はなかなかのしたたか者だったのがリアルな世の中です。当初は活字だけを譲り受ける話だったのですが、後から買い手がないから「機械」もと言われ、二台目の活版印刷機が入りました。
かくして大量の活字が入ったことで、一気に「工場」(こうば)らしくなった。
床を貼って、壁をきれにして机を作って夏の暑い時期にスタッフと二人で大工仕事をして完成させました。なかなか落ち着く昭和なにおいのする工場に満足です。
機械が動くのをみながら酒が飲めそうなスペースになりました。
当初は年賀状、名刺と使っていたのですが通常の仕事もあり足が遠のいてしまっています。
通りに面した店舗なので何やってるところなのか?と皆じーと見ていきます。中に入ってきてここは何ですか?と聞いてくる方もいるし、懐かしいものが見えたので「ちょっといい?」と入ってくる老人も数人いました。
この街にも探せばまだ活版をやっている印刷所はあるのですが、高齢で廃業寸前というところばかり。
都市では、ヤングな方が「活版」を活用しているようですがここではまだそこまで興味を持っている方はいないようです。
博物館的な状態になっていますが、家賃が払える限り頑張って維持していこうと考えています。
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